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日本国内だけでなく、世界においても無国籍者は「透明人間」として扱われてきた。あなたは「無国籍者」と聞いてどんな人を思い浮かべるだろうか?
外国籍・無国籍市民にも一律給付を
「#外国籍・無国籍市民にも一律給付を」というハッシュタグをご存知だろうか。2020年4月中旬、新型コロナウイルス対策として国が一律10万円給付する「特別定額給付金」が本格的に検討され始めた頃、Twitter上では、このハッシュタグと共に給付対象の拡大を訴える運動が起きていた。その一方で、無国籍市民に対して「不法入国者だろ」「テロリスト?」「怖いですね」というツイートも多く見受けられた。
問題は、このハッシュタグ論戦の中で「無国籍とは何か」という問いに対して正しく答えられる人が、どれだけいたのかということだ。「#外国籍・無国籍市民にも一律給付を」と呼びかけていた人たちも例外ではない。外国籍の人について触れていた人は多かったが、無国籍者について具体的に書き込む人は、あまり見られなかった。反対の声をあげている人は、誤解に基づいた批判や中傷をしていた。とにもかくにも、どちらの側のツイートも、実態の伴わない空虚さを漂わせていた。
無国籍者は「透明人間」なのか?
日本国内だけでなく、世界においても無国籍者は「透明人間」として扱われてきた。国連高等難民弁務官事務所(UNHCR)(注1)によると⁽¹⁾世界には1200万人以上の無国籍者がいると推定されており、⁽²⁾日本にも少なくとも687人の無国籍者が暮らしている。私たちがこれまで目を向けてこなかっただけで、本当は「透明人間」などではない。
※注1 国連高等難民弁務官事務所:世界の難民の保護と支援を行ってきた国連の機関
(参照:UNHCR | 国連広報センター (unic.or.jp))

では、無国籍者とは一体どのような人たちなのか。そして、どのような問題に直面しているのか。コロナ禍で「国境」という見えない壁に移動を阻まれ、排外主義(注2)が高まりを見せている今だからこそ、彼・彼女たち一人ひとりの姿にスポットライトを当てたい。一口に無国籍者といっても、生まれ故郷や無国籍になった理由は異なるし、性格や趣味など個人の属性も様々だ。共感することも、同情することも、尊敬することも、思わず目を背けたくなることもあるだろう。無国籍者、一人ひとりのストーリーを知ることで、皆さんが彼・彼女らを身近に感じていただければ、これ以上のことはない。
※注2:自分たちの集団の内的一体性を前提として,他の集団・民族・国家に対して排他的な行動や政策などのこと。(参照:排外主義とは – コトバンク (kotobank.jp))
さあ「国籍のない人たち」を知る旅に出掛けよう。
参考文献:
⁽¹⁾UNHCR日本、「無国籍者」、https://www.unhcr.org/jp/stateless(最終アクセス:2022年2月28日)
⁽²⁾法務省、「2019年6月調査統計 国籍・地域別 在留資格(在留目的 別 総在留外国人)」https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&cycle=1&year=20190&month=12040606&toukei=00250012&tstat=000001018034&tclass1=000001060399&stat_infid=000031886381(最終アクセス:2022年2月28日)
※本記事は2020年6月14日にPaco Mediaに掲載された 「#1【連載】国籍のない人たち「プロローグ」の記事を編集、加筆しました。
執筆者:鳥尾祐太/Yuta Torio(2000年神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科4年。ロヒンギャ問題を扱った写真展の運営に関わったことをきっかけに、ロヒンギャ問題、無国籍問題の取材を始める。)
編集者:森青花/Aoka Mori